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なぜ、若者は純米酒に惹かれたのか─AI時代に考える、人間味のあるブランドづくり

最近、「AIでマーケティングが変わる」という話を、以前にも増して耳にするようになりました。

実際、私たちが関わる現場でも、
AIを使ってKPI設計をしたり、広告コピーを作成したり、
競合分析を行ったりすることは、もはや珍しいことではありません。

むしろ、「AIを使っているかどうか」ではなく、「使っていて当たり前」の時代になっていると感じます。

もちろん、私たち自身もAIを活用しています。
業務効率は確実に上がりましたし、特に情報整理やリサーチなど、
“時間をかけていたわりに価値になりにくかった作業”は大きく変わりました。

ただ一方で、AIやデータ活用が進めば進むほど、逆に強く感じることがあります。
それは、「人が見えなくなっている」ということです。

数字、KPI、ロジック、フレームワーク。
会議ではそれらが整然と並びます。

しかし、本来マーケティングの中心にいるはずの「人間」が、
そこから少しずつ遠ざかっているように感じる瞬間があります。

たとえば、
カフェで向かい合って座っている二人が、お互いスマートフォンだけを見ているような感覚です。
近くにいるはずなのに、どこか遠い。

そうした違和感に触れるたびに、改めてよく考えます。
人は、どんな時に心を動かされるのだろう、と。

私は以前から、
こうした「人の心が動く瞬間とは何だろう」という問いを持っていました。

高校時代からマーケティングに興味を持ち、
多くの理論や手法に触れる中で、数字やロジックだけでは捉えきれない、
“人の感性”や“心が動く瞬間”の重要性を強く感じるようになり、

たどり着いたのが、
「Human Oriented Marketing/人間味マーケティング(以下HOM)」という考え方です。

それは、単に“感情を大切にしましょう”という話ではありません。

企業やブランドの中にある、人の感情、感性、誇り、熱量。
 そして、その商品を受け取る人の心の動き。
そうした“人の温度”を起点に、ブランドの本質を見つめ直していく考え方です。

“人の心に向き合う”という視点でブランドを見つめ直していくと、
商品のスペックや機能だけではなく、
その背景にある人の想いや、土地の空気、受け継がれてきた感性が見えてきます。

私たちはこれまで、HOMを通して、さまざまなブランドと向き合ってきました。
その象徴的なプロジェクトのひとつが、
広島の酒蔵と取り組んだ日本酒ブランド「みわさくら」です。


「若者向け」にしようとして、うまくいかなかった

このプロジェクトが始まった背景には、「若者の日本酒離れ」がありました。
日本酒全体の消費量が減少する中で、
蔵元も、「このままでいいのか」という不安を抱えていました。

実際、一度は“若者向け”に寄せた施策も試していたそうです。
 飲みやすく、軽く、ジュースのような日本酒。
ただ、それはうまくいかなかった。

おそらく、商品だけではなく、
蔵元自身もどこかで違和感を抱えていたのだと思います。
私たちはまず、
「どう売るか」ではなく、「この蔵元は本当は何をつくりたいのか」を聞くことから始めました。

すると、ある瞬間、蔵元の表情が変わりました。
「利益度外視で言うなら、酔っぱらえる酒が好きなんです」
そう言って、笑っていたんです。

昨今、“酔うこと”は、どこかネガティブに語られがちです。
ですが、その蔵元は、
「人と飲んで、笑って、酔って、少し失敗することも含めて、お酒の価値なんじゃないか」と話していました。
さらに、「今でも二日酔いになりますよ」と、楽しそうに話していたのも印象的でした。

その瞬間、このブランドの本質は、
“若者向けの日本酒”ではなく、“酔い”そのものなのだと感じました。
つまり、変えるべきなのは「純米酒」ではなく、
純米酒に対する“解釈”だったのです。

「強み」を探すのではなく、「本音」を掘る

マーケティングでは、よく「強みを見つけましょう」と言われます。

しかし私たちは、独
自性は「差別化」から生まれるのではなく、「本音」から生まれると考えています。
なぜなら、人や企業の感情には、その人(その企業)にしかない固有性があるからです。

知識は真似できます。ロジックも再現できます。
でも、「どう感じているか」は真似できません。

蔵元が本当に届けたかったのは、“飲みやすい日本酒”ではありませんでした。
仕事終わりに飲んで、酔って、語って、つながる。

そんな、人間らしい時間でした。

だから私たちは、
「若者向けだからポップにする」という方向には進みませんでした。
むしろ、純米酒の持つ無骨さや、
酔いの深さを、現代の感性で再解釈していこうと考えました。

そこから生まれたのが、「もっと世の中は酔っていていい。」というコンセプトです。
さらに、“酔ゑ体験”という言葉をつくり、
音楽やビジュアルも含めて、「酔い」をエモーショナルな体験として設計していきました。

古いものを消すのではなく、古さの中にある価値を、新しい感性で見つめ直す。
それが、このプロジェクトの核だったと思います。

ペルソナではなく、「感情が動く瞬間」を見る

私たちは、一般的なペルソナ設計をあまり重視していません。
もちろん整理のために使うことはあります。
 ただ、そこから“生きた人間”が見えることは少ないと感じています。

人は、そんなに単純ではありません。

繊細な人も、おおざっぱな部分を持っています。
コーヒーが好きな人も、紅茶を飲みたい日があります。

だから私たちは、「どんな属性か」ではなく、「どこで感情が動くのか」を見ています。
みわさくらで言えば、“酔い”にまつわる感情。
 憧れ、失敗、幸福感、つながり。そこに共鳴する人たちに届けばいいと考えました。
ターゲットとは、“固定化された人間像”ではなく、“感情が動く状態”なのだと思います。

AI時代だからこそ、人間に戻る

AIは、これからさらに進化していくと思います。
情報整理も、分析も、アウトプットの生成も、ますます高度になるでしょう。

ただ、それでも最後に人を動かすのは、人だと思っています。

正しいことを言われても、人はなかなか動きません。
でも、「最近ちょっと変わったね」「それ、いいね」
そんな一言で、人は急に頑張れたりする。

論理ではなく、感情が動いた瞬間に、行動は生まれるからです。

だからこそ、
これからのブランドに必要なのは、情報量や正しさだけではなく、
“人間味”なのだと思います。


誰が、どんな想いで、何を届けたいのか。
そこに感情が宿っているブランドは、やはり強い。

私たちが考えるHuman Oriented Marketingとは、単なる感情論ではありません。
企業と消費者のあいだにある、
“まだ言語化されていない価値”を見つけ、関係性を育てていくこと。

そして、人の感情や感性を起点に、ブランドの未来をつくっていくことです。
AI時代だからこそ、私たちはもう一度、
「人間」の方を向く必要があるのかもしれません。