marketing
競合と市場を育てる 人間味マーケティングの発想
──日本靴下協会の仕事で改めて考えたこと
競合が集まる場所で見えてくる本質的な価値
現在、靴下業界の発展や需要拡大を目的とした日本靴下協会の取り組みに携わらせていただいています。
この仕事の特徴は、本来であれば競合関係にある複数の企業が集まり、
業界全体をどう盛り上げていくかを一緒に考えることです。
マーケティング会社として仕事をしていると、
多くの場合は一社のブランドや商品の価値を高めることが役割になります。
しかし日本靴下協会では少し状況が違います。
ある月はA社と仕事をし、次の月はB社と仕事をする。
会議では複数の企業が同じテーブルにつくこともあります。
最初の頃は独特の空気がありました。
競合企業同士ですから、当然ながら慎重になります。
どこまで話していいのか、どこまで共有していいのか。発言にも気を遣います。
だからなのか、気づけば私が会議の進行役を担うことも少なくありません。
ところが、そんな場に長く関わっていると、
少しずつ景色が変わってきます。
会議の前後で雑談をするようになる。
「あの企画、大変でしたね」「前回の取り組み、面白かったですね」。
そんな会話が自然と増えていきます。
企業の担当者としてお話させていただいていた相手が、
いつの間にか人同士の温かみのある存在になっていくのです。
私たちの仕事は、企業の外側からアドバイスをするだけではありません。
担当者の方と何度も話をし、一緒に企画を考え、課題を共有しながら伴走していきます。
そうしているうちに、その企業が大切にしていることや、
その人自身の考え方が見えてきます。
すると不思議なことに、その会社を応援したくなってくるのです。
情がかなりうつってきてしまい、新しい取り組みを聞けば嬉しくなるし、
成果が出れば自分のことのように嬉しい。
日本靴下協会で出会う各企業に対しても、同じくらい好きになってしまうんです。
マーケティング会社としては少し不思議な感覚かもしれません。
本来であれば競合関係にある企業同士なのに、
それぞれの魅力や努力を知るほど、どの企業にも頑張ってほしいと思うようになるのです。
企業の向こう側にいる人たち
先日、靴下メーカーの工場を訪れる機会がありました。
工場で働く皆さんを撮影していた時、
一人の方が「もう30年以上ここで働いています」と話してくださいました。
その言葉がとても印象に残っています。
私たちは普段、企業を企業として見ています。
ブランド名や商品名、市場シェアや売上、競争優位性—。
マーケティングの仕事をしていると、どうしてもそうした情報に目が向きます。
しかし実際に現場へ行くと、見えてくるものはまったく違います。
そこには長年ものづくりを支えてきた人がいる。
商品に誇りを持って働いている人がいる。
地域の産業を守ろうとしている人がいる。
工場で話を聞いていると、その企業の歴史や文化だけではなく、
その土地の空気まで見えてくるような気がします。
奈良県は日本有数の靴下産地です。
日本靴下協会の仕事を通じて、奈良の企業や工場に触れる機会が増えましたが、
以前よりも奈良そのものに興味を持つようになりました。
地域に根付いたものづくりの価値や、
長く受け継がれてきた技術に触れるたびに、
「この価値をもっと知ってもらいたい」と感じるようになったのです。
こうした経験を重ねる中で、私は改めて思うようになりました。
企業の価値は、商品やサービスだけでできているわけではない。
そこで働く人たちの想いや誇り、積み重ねてきた歴史や文化もまた、その企業の価値の一部なのだと。
だからこそ、企業同士を単純な勝ち負けだけで見ることが難しくなります。
それぞれの企業に、それぞれの魅力がある。
それぞれに応援したくなる理由がある。そのことを知ってしまうからです。

(会員企業にマーケティングを解説する代表・塩谷)
業界全体を育てるという発想
もちろん、企業にとって競争は必要です。
私たちもマーケティング会社として、クライアントの価値を高め、
選ばれる存在にしていくことを大切にしています。
一方で、私は以前から、マーケティングにはもう一つの役割があると考えてきました。
それは、市場そのものを育てることです。
限られた市場の中でシェアを奪い合うだけではなく、
まだ見過ごされている価値を見つけること。新しい魅力を伝えること。
そして市場そのものを広げていくこと。
それもまた、マーケティングの重要な役割だと思っています。
日本靴下協会の仕事は、その考え方を改めて確信させてくれました。
業界全体を盛り上げようとするとき、
「どの企業が勝つか」だけでは話が前に進みません。それぞれの企業が持つ強みや魅力を見つけ、
それを発信し、業界全体への関心を高めていく必要があります。
実際、日本靴下協会の取り組みを見ていると、
競合企業が集まりながらも、業界全体の未来について真剣に議論しています。
その姿を見ていると、市場は奪い合うだけのものではなく、育てることもできるのだと感じます。
人口減少や市場の成熟が進む日本では、
「どうシェアを奪うか」という議論が増えがちです。
しかし本当に必要なのは、それだけなのでしょうか。
まだ知られていない魅力を見つけること。
埋もれている価値を言葉にすること。
人が共感できる物語を届けること。
そうした取り組みの先に、新しい市場が生まれることもあるはずです。
最近はAIの話を聞かない日がありません。
情報整理も、分析も、コンテンツ制作も、これからさらに効率化されていくでしょう。
その一方で、日本靴下協会の会議室で交わされる会話や、
工場で出会った方々の言葉は、数字だけでは見えてこない価値を教えてくれます。
企業の価値は、商品やサービスの中だけではなく、人の中にもあるのだと思います。
私たちが掲げる人間味マーケティングも、特別な理論ではありません。
企業や商品の背景にある人の想いを見つけること。
まだ言葉になっていない価値を見つけること。そして、その価値を社会へ届けていくことです。
日本靴下協会での活動や日々のクライアントワークを通じて、
その大切さを改めて実感しています。
市場は戦うものなのか、それとも育てるものなのか。
その問いに対する答えは一つではありません。
ただ少なくとも、これからの時代は「育てる」という視点が、
これまで以上に重要になっていくのではないかと感じています。
日本靴下協会様の事例はこちら